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社会科学研究所

2019年度全国農業経営コンサルタント協会 山口現地研修同行記

日時 2019年9月12日(木)~14日(土)
訪問先 山口県山陽小野田市

2019年9月12日~9月14日にかけて、全国農業経営コンサルタント協会が例年実施する現地研修に社会科学研究所所員の保田講師と野島所員が参加した。
以下、現地研修の同行記である。(保田講師の執筆であるが、野島所員の所感も付記する。)

2019年9月12日

14:10 有限会社グリーンハウス(山陽小野田市)視察

有限会社グリーンハウスは、山口県山陽小野田市の西高泊地区に国営干拓事業後入植したことから開業した企業であり、ネギの生産を中心に行っている。ハウス110棟(東京ドーム1個分)の面積を有し、山陽小野田市名産品「おのだネギ三昧」を中心に生産活動を行っている。現地視察では、ネギの包装センターを視察した。タイの農業研修生などを含む数多くの従業員が働く工場であり、ASIAGAPを取得するために洗浄場と包装部門を完全に分離した非常に清潔感のある場所であった。収穫後の洗浄から包装、出荷準備まで全て機械化された施設であり、一日10,000束を超えるネギを出荷できる体制が整えられている。JGAPやASIAGAPを取得し、高度に機械化された農業事業者を視察することができた。

(野島所員の所感)

自社の生産物を信頼していただく土台となるのは安全。故に食中毒などのリスク管理に徹底的に拘る姿勢を伺うことができた。その取り組みを牽引しているのが女性であり、女性が安全に対して自信と誇りをもっていきいきと働く姿が印象的であった。

  • グリーンハウス全景

  • ネギの出荷詰め作業工程

  • ネギの出荷詰め作業工程

  • グリーンハウス全景

16:00 株式会社 秋川牧園(山口市)視察

株式会社秋川牧園は、採卵養鶏から始まった企業であり、日本初の農業生産からの株式上場を成し遂げた企業である。鶏肉、鶏卵、牛乳、豚肉、牛肉、無農薬野菜の生産販売を行うのみならず、冷凍加工食品や乳製品の製造など6次産業化を実現している。6社の連結子会社を有し、生産から製造、加工、販売までを手掛ける農業経営の成功事例を視察することができた。視察では、秋川正代表取締役社長から説明を受けたのち、鶏肉の食品加工工場、直売所、飼料米の保管倉庫を実際に視察した。6次産業化を進めていくと消費者に直結することで、自分たちの生産した農畜産物がどのように消費されていくのかが見えるようになるというメリットがあり、業界で無理であるといわれるような農畜産物の加工、販売事業にまでチャレンジしていきたいという秋川社長の言葉が印象的であった。

(野島所員の所感)

売上の過半を占める鶏肉、鶏卵等の生産物は市場価格の1.5倍程度の価格帯でお買い上げいただけるとのこと。なぜその価格帯になるのか、自社の取り組みをお客様に説明することを通じて自社のファン作りに力を入れている。その他、農業に最適な組織経営モデルの模索を続ける社長の姿勢が印象的であった。

  • 秋川牧園全景

  • 唐揚げ加工品製造工程

  • 飼料備蓄庫全景

  • アイスクリーム製造工程

2019年9月13日

9:00 萩アグリ株式会社(萩市)視察

山口県初となる複数の集落営農法人の連合体であり、7つの集落営農法人が傘下にある企業である。既存の集落営農法人単位では若者雇用への経済力が不足してしまうなど問題があるため、既存の集落営農法人(集落の自治)は活かしながら共同利用機械の整備や人材育成などを3階法人で対応することを趣旨として設立されたものである。したがって、日々の農業経営自体は各集落営農法人の裁量に任されるものの、大型機械の共同利用、6次産業化による付加価値の向上などのために株式会社としてのマネジメントが発揮されているとのことであった。農事組合法人による集落営農については、機能不全に陥ってしまう事例も多く見られるが、萩アグリ株式会社のように複数の集落営農法人を包摂する連合体を設立することで、資金力や雇用創出能力が向上して、農業経営の持続可能性が向上することが期待できることを現地を視察することで確認することができた。

(野島所員の所感)

中山間地域であり大規模な集落営農法人の設立は困難である一方で、小規模経営では未来がないとの危機感の中で独自の経営モデルを模索している。株式会社経営の理念に賛同は得られながら、設立には個々の利害がぶつかり遅々として進まなかった当時の話を伺い、農業における大規模組織形成の難しさをリアルに感じることができた。

萩アグリビニールハウス入口

10:50 有限会社 船方総合農場(山口市)視察

船方総合農場は、昭和44年に法人化された企業であり、大規模化・6次産業化に成功している企業である。1次産業~3次産業に至る様々な企業体を包摂するグループとなっており、「みどりの風協同組合」が船方総合農場をはじめとする様々な企業群をマネジメントしている。グループ内で1次産業から2次産業、2次産業から3次産業に農畜産物を移していくにあたっては取引単価(いわゆる内部振替価格)が設定されており、企業ごとの収益性を正確に把握することに努力が払われていることがうかがえた。また、6次産業化は「1次産業⇒3次産業⇒2次産業」という順序で実現されたという坂本多旦代表取締役の言葉が印象的であった。これは、6次産業化が成功するためには、消費者が見えていることが必要不可欠であり、販売ルートや消費者が確実に存在しないにも関わらず、2次産業化をすることは危険であり、消費者ニーズを理解したうえで必要となる加工によって高付加価値化が実現されるということである。6次産業化を進展させていくために非常に重要な視点であると考えられる。

(野島所員の所感)

かつて「家」を中心とした農業が行われ上手く機能していた当時から、現在の日本の農業の姿を予見し、いち早く近代化と法人化を目指した坂本様のお話に感銘を受けた。常にビジネスとして農業を捉え、数値に基づき経営判断を行ってきたとのこと。農業を愛し、その可能性を追求し続ける姿勢が印象的であった。

  • 船方総合農場の説明を受ける参加者

  • バーベキュー場入口

  • 船方農場全景図

14:30 有限会社 長門アグリスト(長門市)視察

有限会社長門アグリストは養鶏を起点として、堆肥づくりから野菜生産、長門産純粋黒みつ他食品加工を行う企業である。山口県全体で600万羽程度の養鶏がなされているうち、長門アグリストで約120万羽程度が飼育されている。2次産業のため長門産ネットワーク協同組合、3次産業のために株式会社63Dnetという組織を立ち上げ、山口県内に広く関連企業や工場を有している。食品加工技術は最新の設備を備えており、金属探知機やレトルトパック生産用のラインも具備している。なかなか大きな利益を確保することができず、役員報酬はない状態で経営されているという末永代表取締役社長の発言から、収益性をいかに高く確保できるかが農業経営にとって不可欠のテーマであることが伝わってきた。

(野島所員の所感)

先代から養鶏事業を受け継ぎ、規模拡大、多角化を進めている。養鶏は相場に左右されない安定的な経営を目指して高品質の鶏に切り替え、鶏糞を利用して堆肥を作り、堆肥を利用して野菜を作り、それを利用した加工品を作るモデルを構築している。「循環型農業」や「6次産業化」の実践例として興味深い事例であった。

  • 船方総合農場の説明を受ける参加者

  • バーベキュー場入口

17:30 阪田農園(下関市)梨狩り

  • 梨狩りの様子

2019年9月14日

8:45 株式会社 花の海(山陽小野田市)視察

前日訪問した船方総合農場代表取締役の坂本多旦氏が開設した企業であり、苗物、鉢バラの生産、イチゴ狩り、直売所運営など大規模施設農場を運営する企業である。敷地面積16ha(東京ドーム3.5個分)という瀬戸内海に面した干拓地に広がる農場である。イチゴの体験農業や苗物のビニールハウス群が干拓地一面に広がり、250名以上の職員の方が働く大規模農業経営体である。とくにビニールハウスは水やりなどが完全自動化されており、極力少ない人員で生産活動が行えるように設計されている。安定的な苗作り、高付加価値化したアウトプットの生産のために、大規模化を図った先進的な事例であり、現地を視察することで多くの知見を得ることができた。

(野島所員の所感)

良質の苗を効率的に生産するために、工程管理を徹底し、機械化を推し進め、人による作業が必要な仕事でもその作業を効率的に行うための設備が導入されている。製造業の工場見学をしているような錯覚に陥った。重労働から解放され、ビジネスとして採算がとれる未来の農業の姿をイメージすることができた。

  • ビニールハウスの中の様子

  • 体験農園の入口

  • ビニールハウスの中の様子

  • ビニールハウスの中の様子
    (可動式であることがわかる)

10:20 唐戸市場・カモンワーフ(下関市)散策

  • 唐戸市場の中の様子

  • 関門海峡(向こう側が北九州市)